ピリメタミン pyrimethamine錠(販売名Daraprim)
スルファジアジン sulfadiazine錠(販売名 Sulfadiazine、Sulfadiazin Streuli)

[薬剤の作用]

●ピリメタミン
 本薬剤はジアミノピリミジン類に属し、細菌や原虫の葉酸合成の過程で、ジヒドロ葉酸還元酵素によるジヒドロ葉酸からテトラヒドロ葉酸への変換を阻害する。ピリメタミンは通常、スルホンアミド類とともに投与されるが、両薬剤は葉酸合成経路の異なる段階での阻害作用があることから、相乗効果を示す。ヒトのジヒドロ葉酸還元酵素に対する本薬剤の阻害作用は、細菌や原虫の同酵素に対する作用と比べて1,000分の1程度であり、影響は少ないとされる。

●スルファジアジン
 本薬剤はスルホンアミド(sulfonamide)類に属する。スルホンアミドはジヒドロプテロイン酸合成酵素によるパラアミノ安息香酸(PABA)からジヒドロプテロイン酸への変換を阻害し、その結果、ジヒドロ葉酸の生成を阻害する。一方、ヒトを含めて哺乳動物の細胞はこの部分の葉酸合成系をもたないので、スルホンアミドによる影響を受けない。


[薬物動態]

●ピリメタミン
 経口投与後の吸収は良好であり、約2〜6時間で最大血中濃度に達する。87%が血漿タンパク質と結合し、主に腎臓、肺、肝臓、脾臓に蓄積する。血中半減期は96時間である。薬剤の46%は腎から排泄されるが、24時間での尿中未変化体排泄率は3%未満とされ、代謝物での排泄が多いと思われる。また、乳汁中にも分泌される。

●スルファジアジン
 消化管から急速に吸収され、3〜6時間後に血中濃度はピークに達する。主要な吸収部位は小腸で、血液中では55% が血漿蛋白と結合する。吸収後は比較的均一な体内分布を示し、胸膜腔、腹膜腔、眼球、脳脊髄液にも容易に移行し、胎盤も通過する。肝臓で代謝を受けてN4-アセチル化スルホンアミドが生成され、これは抗菌活性を有しないが、毒性を有している。遊離型およびアセチル化型ともに大部分は腎臓から排泄されるが、酸性尿ではスルホンアミドは不溶性となり、結晶を生じることもある。


[薬剤耐性]

●ピリメタミン
 マラリア原虫のピリメタミン耐性の機序として、ジヒドロ葉酸還元酵素−チミジル酸合成酵素の遺伝子変異が考えられている。試験管内でトキソプラズマ原虫のピリメタミン耐性が報告されており、上記と同じ酵素の変異が原因とされるが、臨床的意義は明らかでない。

●スルファジアジン
 スルファジアジンに対する耐性獲得にはいくつかの機序が推定されている。1) ジヒドロプテロイン酸合成酵素の変異による親和性低下、2) 細菌での薬物透過性の低下、もしくは能動的薬物排泄機序の獲得、3) 葉酸代謝の代替代謝経路の出現、などである。スルホンアミドは本来グラム陽性球菌からグラム陰性菌に対して広範囲に抗菌活性を有していたが、現在では耐性が多くなっている。試験管内でのスルファジアジン耐性トキソプラズマ原虫株が報告されているが、臨床的意義は明らかではない。


[臨床効果]

 トキソプラズマ症には複数の病型があるが、ここではAIDSに合併するトキソプラズマ脳炎についてのみ述べる。ピリメタミン(50mg/日)+スルファジアジン(4g/日)とピリメタミン(50mg/日)+クリンダマイシン(2.4g/日)との比較試験では、臨床的効果に差がないとする報告1)、後者では維持療法の時期での再発率予防効果が低いとする報告2)がある。ただしいずれの報告でも、忍容性はピリメタミン+スルファジアジンの方が低かった。ST合剤については、比較試験でないが71例にトリメトプリムとして10mg/kg/日(スルファメトキサゾール50mg/kg/日)を4週間投与し、有効であると思われた3)。また、ピリメタミン(50mg/日)+スルファジアジン(60mg/kg/日)とST合剤(トリメトプリムとして10mg/kg/日)とを比較した試験では、後者の方が急性期治療後に改善を見る例が多く、副作用も後者の方が少なく4)、同じ組み合わせで比較した後ろ向き試験では、効果は同程度であり、忍容性は後者の方が良好であった5)。アトバコン(3g/日・分2)については、急性期治療としてピリメタミン(200mg負荷投与、その後75mg/日)あるいはスルファジアジン(6g/日・分4)との併用で6週間、維持療法として42週間投与し、胃腸症状が多く見られたが、他の点では忍容性も良好で、効果が期待できると述べられた6)


[副作用]

●ピリメタミン
 通常の抗マラリア用量を単独で用いる場合、ほとんど毒性を生じないとされる。トキソプラズマ症の治療では葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血を呈することがあるが、薬剤の中止で容易に改善し、フォリン酸(ホリナート、商品名ロイコボリン)を併用することで予防できる。

●スルファジアジン
 以下に、スルホンアミド類としての副作用を述べる。食欲不振、悪心、嘔吐は12% 以上の患者でおこり、中枢神経への障害と考えられている。尿pHが5.5を下回ると不溶性となり、腎結石を生じるほか、場合によっては急性腎不全を生じることがある。血液系障害では溶血性貧血(特にG6PD欠損の場合)、顆粒球減少症、汎血球減少症などが知られている。過敏性反応として発疹、皮膚紅潮、掻痒感、光線過敏などを来すことがあり、特にAIDS患者で頻度が高い。服用開始3〜5日後に肝障害が出現し、急性黄色肝萎縮症を呈して死亡した症例もある。


[禁忌・慎重投与]

 ピリメタミンとスルファジアジン両者に共通するが、薬剤に過敏症を有する者、葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血の者では禁忌である。腎、肝障害を有する者、葉酸欠乏あるいはその可能性のある者(吸収不良症候群、アルコール依存症、妊娠中、フェニトインなどの薬剤を内服中)では注意が必要である。


[薬物相互作用]

 ピリメタンミンとスルファジアジン両者に共通するが、ST合剤、プログアニル、ジドブジン、メトトレキサートなどの骨髄抑制を生じる薬剤と併用すると、骨髄抑制のリスクが高まる。


[成人での用法・用量]

 ここではピリメタミン、スルファジアジンのみならず、他の薬剤も含めたトキソプラズマ症の治療について述べる。
1) 妊婦の初感染(胎児感染あり);(a)〜(c)を併用する。
(a) ピリメタミン;最初の2日間100mg/日・分2、その後50mg/日(分娩まで)
(b) スルファジアジン;最初の2日間75mg/kg/日(最大4g/日)・分2、その後100mg/kg/日(最大4g/日)・分2 (分娩まで)
(c) ロイコボリン;5〜20mg/日(ピリメタミン中止後1週間まで)
   
2) 眼トキソプラズマ症;(a)〜(d)を併用する。
(a) ピリメタミン;初日200mg/日・分2、その後50〜75mg/日(症状軽快後1〜2週間まで)
(b) スルファジアジン;100mg/kg/日・分2
(c) ロイコボリン;5〜20mg/日を週3日(ピリメタミン中止後1週間まで)
(d) プレドニゾロン;1mg/kg/日・分2(症状が軽快するまで)
   
3) トキソプラズマ脳炎
標準療法 : (a)〜(c)を併用する。
(a) ピリメタミン;初日200mg/日・分2、その後50〜75mg/日(症状軽快後4〜6週間まで)
(b) ロイコボリン;10〜20mg/日(最大50mg)(ピリメタミン中止後1週間まで)
(c) スルファジアジン;4.0〜6.0g/日・分4 またはクリンダマイシン;2,400mg/日・分4 (注射は最大4,800mg/日)

代替療法1
(a) ST合剤;トリメトプリムとして10mg/kg/日・分2 (症状軽快後4〜6週間まで)

代替療法2 : (a)〜(c)を併用する。
(a) ピリメタミン;初日200mg/日・分2、その後50〜75mg/日
(b) ロイコボリン;10〜20mg/日(最大50mg) (ピリメタミン中止後1週間まで)
(c) クラリスロマイシン;2g/日・分2、またはアトバコン;3,000mg/日・分4、またはアジスロマイシン;1,200〜1,500mg/日、またはダプソン;100 mg/日

AIDS患者の場合、CD4陽性細胞数200/μL以上が6ヶ月維持するまで、二次予防として、ピリメタミン25〜75mg/日、スルファジアジン 4.0〜6.0g/日・分4、ロイコボリン10〜25mg/日の投与を行う。
 尿細管におけるスルファジアジン結晶の沈着防止のため、尿量増加(成人では少なくとも1,200ml/日)、さらに尿アルカリ化(炭酸水素ナトリウムの内服で、尿pHを7.5以上に)を図る。

[小児での用法・用量]

必ず専門家に個別に相談すること。
先天性トキソプラズマ症;(a)〜(d)を併用する。
(a) ピリメタミン;最初の2日間は2mg/kg/日、その後2〜6ヶ月間は1mg/kg/日(1年間)
(b) スルファジアジン;100mg/kg/日・分2
(c) ロイコボリン;10mg/日を週3日(ピリメタミン中止後1週間まで)
(d) プレドニゾロン;1mg/kg/日・分2(症状が軽快するまで)

[妊婦への投与]

 ピリメタミンについては動物実験で催奇形性があるので、16週までの使用は禁忌とされ、それ以降でも安全性が懸念される。しかし現実問題として、胎児感染がある場合には、これらのデメリットを承知のうえ投与がなされることもある。
 スルホンアミド類は血漿アルブミン上のビリルビン結合部位に競合的に結合するので、核黄疸の危険があり、妊娠の最終月には投与すべきでないとされる。また、胎児のアセチルトランスフェラーゼ酵素系が未熟のため、血中遊離スルホンアミドの上昇が危惧される。

[腎不全時の投与]

●ピリメタミン
 腎不全時における至適用法・用量は不明である。

●スルファジアジン
 腎不全で蓄積するN-4アセチル化代謝物は抗菌活性を有していないが、毒性を有しているので、1回投与量の減量、投与間隔の延長を考慮する。

[引用文献]

1) Dannemann B, McCutchan JA, Israelski D, et al. Treatment of toxoplasmic encephalitis in patients with AIDS. A randomized trial comparing pyrimethamine plus clindamycin to pyrimethamine plus sulfadiazine. The California Collaborative Treatment Group. Ann Intern Med 1992;116:33.
2) Katlama C, De Wit S, O'Doherty E, et al. Pyrimethamine-clindamycin vs. pyrimethamine-sulfadiazine as acute and long-term therapy for toxoplasmic encephalitis in patients with AIDS. Clin Infect Dis 1996;22:268.
3) Torre D, Speranza F, Martegani R, et al. A retrospective study of treatments of cerebral toxoplasmosis in AIDS patients with trimethoprim-sulfamethoxazole. J Infect 1998;37:15.
4) Torre D, Casari S, Speranza F, et al. Randomized trial of trimethoprim-sulfamethoxazole versus pyrimethamine-sulfadiazine for therapy of toxoplasmic encephalitis in patients with AIDS. Antimicrob Agents Chemother 1998;42:1346
5) Arens J, Barnes K, Crowley N, Maartens G. Treating AIDS-associated cerebral toxoplasmosis - pyrimethamine plus sulfadiazine compared with co-trimoxazole, and outcome with adjunctive glucocorticoids. S Afr Med J 2007;97:956.
6) Chirgwin K, Hafner R, Leport C, et al. Randomized phase II trial of atovaquone with pyrimethamine or sulfadiazine for treatment of toxoplasmic encephalitis in patients with acquired immunodeficiency syndrome: ACTG 237/ANRS 039 study. Clin Infect Dis 2002;34:1243.