観光、企業活動、学術調査、途上国援助など種々の形で国際交流が活発化し、大量航空機輸送の発達と相まって、日本からの海外短期旅行者や長期滞在者が増加しつつある。旅行目的国としては熱帯・亜熱帯地域や途上国も増えており、熱帯病・寄生虫症に罹患する日本人も増加しつつある。従って、国内においてもそれらの治療薬剤の医療上の有用性は高くなっているが、患者数が収益性に見合うほど多くはないので、国内製薬企業はその開発に積極的でない。それらは稀用薬またはオーファンドラッグと呼ばれるが、その問題が1980年当時の厚生省薬務局審査課を中心に検討され、研究班を発足させて対処を行うことが決定された。その結果、同年に下記の研究班が発足して熱帯病・寄生虫症の稀用薬の保管・供給体制を確立し、関連する研究も開始された。以来、母体は異なっても現在まで継続されている。以下に研究班の沿革を簡単に述べる。

1980年に厚生省研究事業「輸入熱帯病の薬物治療法に関する研究班(班長:東京大学医科学研究所 田中 寛)」が発足し、クロロキン、スルファドキシン/ピリメタミン合剤、キニーネ二塩酸塩注射液、プリマキンなどの抗マラリア薬を含む国内未承認薬15種類の海外製薬企業からの輸入を開始した。国立衛生試験所(現国立医薬品食品衛生研究所)での薬剤試験により医薬品としての適格性を確認し、保管機関に配備し、治療担当医からの要請に応じて治験薬として配布する体制を確立した。この時期には、研究班からの供与薬剤でのデータが参考とされ、1987年には抗糞線虫薬のチアベンダゾール、抗マラリア薬のスルファドキシン/ピリメタミン合剤(ファンシダール)、抗鞭虫薬のメベンダゾールが国内で承認されるに至った。

1988年4月〜1993年3月には厚生省新薬開発研究事業として、1993年4月〜1998年3月には厚生省オーファンドラッグ研究事業として「熱帯病治療薬の開発研究班(班長:東京慈恵会医科大学 大友弘士)」の名称で継続された。この時期に研究班のデータを参考として国内で承認された薬剤としては、抗吸虫薬のプラジカンテル、抗包虫薬のアルベンダゾールがあげられる。

さらに1998年4月からは、創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業「輸入熱帯病・寄生虫症に対するオーファンドラッグの臨床評価に関する研究班(班長:東京慈恵会医科大学 大友弘士)」に再編成された。この時期からは特にヨーロッパの専門病院との交流を開始し、有用な情報の入手、適切な薬剤使用法の確立に努めた。この時期に研究班が新規導入した薬剤としては抗マラリア薬としてアトバコン/プログアニル合剤、アーテスネートなど、赤痢アメーバ症のメトロニダゾール注射液、ラッサ熱などのウイルス性出血熱のための経口リバビリンなどが挙げられる。

2001年4月からは厚生科学研究費補助金・創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業「熱帯病に対するオーファンドラッグ開発研究班(班長:東京慈恵会医科大学 大友 弘士、その後、宮崎大学医学部 名和 行文)」として、熱帯病・寄生虫症の治療薬に関しての海外専門機関との交流をますます促進し、新規に必要な薬剤の導入、薬剤保管機関の見直しなどを行った。薬剤保管者の間での議論を深めたり、海外の有用な情報を得るためのネットワーク活動にも力を注いでいる。薬剤購入に関しては、ロンドンの総合薬品販売会社から複数の薬剤を購入するルートを確立した。この時期に研究班が新規導入した薬剤としてはアフリカトリパノソーマ症(睡眠病)治療薬の3種類、すなわちスラミン、メラロソプロール、エフロールニチンが挙げられる。この時期に研究班のデータを参考として国内で承認された薬剤としては、抗マラリア薬のメフロキン、抗糞線虫薬のイベルメクチンがあげられる。

2004年4月からは厚生労働科学研究費補助金・創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業「熱帯病・寄生虫症に対する稀少疾病治療薬の輸入・保管・治療体制の開発研究」(班長:宮崎大学医学部 名和行文)として発足した。早々にして、後天性免疫不全症候群などの免疫不全者におけるクリプトスポリジウム症を対象とし、ニタゾキサニドを導入した。また、フロ酸ジロキサニドの代替えとしてパロモマイシンを導入し、内臓リーシュマニア症の新規薬剤ミルテフォシンも導入した。

2007年4月からは厚生労働科学研究費補助金・政策創薬総合研究事業「輸入熱帯病・寄生虫症に対する稀少疾病治療薬を用いた最適な治療法による医療対応の確立に関する研究」(班長:結核予防会新山手病院 木村幹男)として活動を行った。この時期には、「臨床研究に関する倫理指針」(平成20年7月31日全部改正)を遵守した薬剤使用体制への移行の準備を行なった。

2010年4月からは厚生労働科学研究費補助金・創薬基盤推進研究事業「国内未承認薬の使用も含めた熱帯病・寄生虫症の最適な診療体制の確立」(班長:結核予防会新山手病院 木村幹男)として発足したが、臨床研究保険への加入も含め、「臨床研究に関する倫理指針」(平成20年7月31日全部改正)を遵守した薬剤使用体制を確立した。2013年2月にはアトバコン・プログアニル合剤が国内発売となった。

2013年4月からは、指定研究として厚生労働科学研究費補助金医療技術実用化総合研究事業(班長:宮崎大学医学部 丸山治彦)が発足した。2014年3月には「寄生虫症薬物治療の手引き改訂8.0版」を発行した。また、2013年4月にはパロモマイシンが発売開始となり、2014年9月にはメトロニダゾール注射薬も発売開始された。なお、2015年4月からは、研究班の委託元が厚生労働省から日本医療研究開発機構へと変更された。